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日本のカルスト・洞窟写真展

 2007年7月1日〜29日、福岡県平尾台自然観察センターにおいて、日本のカルスト・
洞窟写真展が開催されますので、お立ち寄りいただくようお願いします。
 7月11日西日本新聞朝刊北九州版に写真展の様子が写真付きで紹介されています。
ネット版はこちらから御覧になれます。
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/local/fukuoka/20070711/20070711_012.shtml
 
 日本のカルスト・洞窟写真展 (撮影・解説:浦田健作)
●日時:2007年7月1日(日)〜29日(土)9:00〜17:00
●場所:福岡県平尾台自然観察センター 1階展示室 
 ※月曜日休館(月曜休日の場合翌日)
●問合せ先:福岡県平尾台自然観察センター 
〒803-0180 福岡県北九州市小倉南区平尾台1-4-40
TEL.093-453-3737 FAX.093-452-3739  
Eメール hiraodai@cronos.ocn.ne.jp



25.秋吉台、秋芳洞の百枚皿(山口県)
 秋芳洞の観光名所である百枚皿は、斜面を流下する地下水から石灰分が沈澱した
 畦石鍾乳石の典型として世界的に有名。写真は未公開の斜面上部側から撮影したもの。


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日本のカルスト・洞窟写真展に寄せて

浦田健作
大阪経済法科大学科学技術研究所客員教授

 日本のカルストは総面積1764平方キロで国土の0.4%に相当します(日本地理学会
カルスト地域研究グループ)。世界最大のカルスト地域である中国南部〜ベトナム
北部は面積50万平方キロ、またヨーロッパでは総面積の30%をカルストが占めて
いますから、日本のカルストは世界的には決して大きなものではありません。
しかし、地震の多い変動帯であることは石灰岩に地下水が流れる割れ目を作り、
また海洋性の湿潤な気候は石灰岩を溶かす雨を多く降らせることから、日本列島は
カルストがよく発達する条件をそなえています。一般に大陸地域では石灰岩はまと
まった広がりを見せていますが、日本では小さな岩体が全国に散らばっており、
北海道から沖縄、小笠原まで、ほぼ国土全体にカルストが分布し、その地域の
地質、地形、気候、植生などの自然環境を反映した様々な形態のカルストを形成
しています。そのためカルストの研究は日本の自然そのものを理解することになる
でしょう。
 地球規模で見ると、ひとつの国で寒冷帯から亜熱帯まで、東西南北2500キロに
及ぶ広いカルスト環境を持つ国は日本のほかには中国とアメリカしかありません。
そして日本のカルストはこれらの大陸国と違って、大陸と大洋の境界に位置すると
いう特徴を持っています。
 このように日本のカルストは小規模ながら世界に類を見ないユニークな存在と
考えられますが、残念なことに秋吉台や平尾台のようないくつかの地域が詳しく
研究されているだけで、日本全体のカルスト研究はまだあまり進んでいません。
今回の写真展においても、昨年開催した世界のカルスト・洞窟写真展と同じように
日本のカルストを分類して紹介しようと試みましたが、研究の進展状況からは難しい
ことがわかりました。そのため結局、最近の研究対象としている中国・九州・奄美・
沖縄のカルストを中心に、目に付いた写真を棚からひとつかみという感じになって
しまいました。私のカルスト研究の経過報告として、楽しんで眺めていただければ
幸いです。
 この機会を与えていただいた福岡県平尾台自然観察センターと、様々なかたちで
研究を支援していただいたみなさんに感謝いたします。

 2007年7月1日

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日本のカルスト・洞窟写真展 解説

1.平尾台、羊群原カレンフェルト(福岡県)
結晶質石灰岩特有の円頂ピナクルのカレンフェルト。これほど美しいカルスト景観は
世界的にも少ない。昨年訪れたポーランドの研究者は平尾台を「ファンタスティック・

カルスト」と呼ぶ。

2.五木村、天狗岩(熊本県)
 石灰岩山地特有の巨大な岩壁。高度差200mのオーバーハングの途中に口をあけた
管状洞窟は、かつて水中で形成された大洞窟の名残。探検にはロッククライミングで
壁を登ることが必要。 

3.与論島、ドリーネ(鹿児島県)
 奄美・沖縄に分布する琉球石灰岩と呼ばれる新しい隆起サンゴ礁石灰岩には
浅いドリーネがよく発達し、農地として利用されている。

4.沖永良部島、ドリーネゴルフ場(鹿児島県)
 ゴルフコースとして利用されているドリーネ。青シートの下に竪穴が開口する。

5.宮古島、円錐丘(沖縄県)
 琉球石灰岩に形成された円錐丘。二つ並んでおっぱい山と呼ばれている。
円錐丘の右側に有名な地下ダムがあり、地下水を貯蔵している。

6.宮古島、石灰岩堤(沖縄県)
 森になっている石灰岩の尾根は石灰岩堤と呼ばれる沖縄特有のカルスト地形。
島を縦断する断層沿いに連続するが成因についてはよくわかっていない。

7.伊良部島、枯谷(沖縄県)
 カルストは地表流がないことが特徴だが、琉球石灰岩地域には枯谷がよく発達し、
ドリーネと同じに農地となっていることが多い。写真の枯谷は海岸に達しており、
ダイビングスポットとして利用されている。

8.沖縄島、金武岬の海岸カルスト(沖縄県)
 波食台上の陸側に発達するカレンとピナクルの海岸カレンフェルト。波浪による
侵食と雨水による溶食、さらに生物侵食が加わるため、平均海面付近でよく発達する。


9.喜界島の海岸カルスト(鹿児島県)
 石灰岩上に溜まる雨水と海水の混合水による溶食で形成された底が平らな
円形のくぼみ。カメニツァと呼ばれる。海岸ピナクルよりも陸側に多く分布する。

10.門司、海岸カルスト(福岡県)
 北九州市門司区の瀬戸内海沿岸には石灰岩が分布し、ところどころに小規模な
海岸カルストが見られる。遠景は新北九州空港。

11.阿哲台、土橋の穴の上部洞口(岡山県)
 カルスト台地阿哲台の台上にある貫通洞の上流側の洞口。付近は閉塞谷
(ブラインド・バレー)になっている。

12.阿哲台、土橋の穴の上部洞口(岡山県)
 洞窟から地下水が流出する谷は平坦なカルスト平野で水田として利用されている。

13.秋吉台、無名穴の洞口(山口県)
 秋芳洞近くの台上に開口する竪穴。洞口から写真のテラスまでは高度差約20m、
洞窟全体は高度差100mもあり、秋芳洞との連結が予想されている。

14.平尾台、竜ヶ鼻の竪穴(福岡県)
 平尾台南部、竜ヶ鼻(標高680m)の台地上で最近発見された竪穴。のぞきこんで
いるのは発見者の梶屋さん。平尾台で最も高い場所にある洞窟だが、かつて水中で
形成された管状通路であることから、平尾台が隆起する前に形成された古い洞窟で
ある可能性が高い。

15.平尾台、青龍窟の洞口(福岡県)
 平尾台で古くから知られる青龍窟(苅田町)の東洞口では夏に霧が発生する。裏山
にある西洞口から流入する地表の暖気が洞窟内の冷気と接触するため。霧の厚さ、
濃さは刻々と変化し、神秘的な風景を楽しめとともに、暑い夏には最高に涼しい。

16.平尾台、千仏壁穴(福岡県)
 千仏鍾乳洞の洞口直上の岩壁に最近発見された洞窟。千仏鍾乳洞の古い洞口と
考えられる。入洞するためには岩壁の上からロープで降下する。

17.下地島、通り池(沖縄県)
 海岸近くに開口する陥没ドリーネ池。水深は50m近くあり、水中で大きな空洞が
海に続いている。ダイビングスポットとしても有名。このタイプのドリーネ池は
ユカタン半島によく発達し、セノーテと呼ばれる。

18.秋吉台、秋芳洞の管状通路(山口県)
 秋芳洞の奥部、未公開部分にある急傾斜の管状通路。秋芳洞がかつては水中洞窟
だったことがわかる。通路の上部は砂礫で埋まっている。

19.秋吉台、景清洞の管状通路(山口県)
 秋吉台北部にある観光洞、景清洞の支洞。水中で形成された管状通路がその後
地下水面付近での側方侵食を受けて楕円形の横断面をしている。

20.秋吉台、景清洞の水平天井(山口県)
 洞窟内で長期間停滞した地下水面付近での侵食によって形成された水平天井。
その下にあった石灰岩は溶けてなくなってしまったため、天井面は鏡のように均一でなめらか。

21.平尾台、千仏鍾乳洞の水路(福岡県)
 観光洞奥の未公開部分、第一の滝と第二の滝の間の天井の低い水路。天井には
非石灰岩礫が鍾乳石で付着している。水温13℃と低いため、ケイバーはつなぎの下に
ウェットスーツを着ている。

22.石垣島カラ・カルスト、水路(沖縄県)
 カラ・カルストにあるA1洞窟奥の水路。水温25℃もあるため、ケイバーの
つなぎの下は水着だけでちょうどいい。

23.平尾台、不動洞右洞の潜水調査(福岡県)
 不動洞右洞の地下水は目白洞から流れてくることが地下水追跡で判明している。
スクーバによる潜水調査を試みたところ、10mほどで次の空間に出たがその先の
水中洞窟は未探検のままだ。

24.平尾台、不動洞左洞の潜水調査(福岡県)
 牡鹿洞、こむそう穴の水が流れてくる不動洞左洞の水中洞窟を水中ビデオカメラで
撮影し、水中に直線的な空洞が続いていることがわかった。次はこむそう穴まで
スクーバによる潜水調査を計画している。

25.秋吉台、秋芳洞の百枚皿(山口県)
 秋芳洞の観光名所である百枚皿は、斜面を流下する地下水から石灰分が沈澱した
畦石鍾乳石の典型として世界的に有名。写真は未公開の斜面上部側から撮影したもの。

26.平尾台、芳ヶ谷第三洞の鍾乳石群(福岡県)
 芳ヶ谷第三洞は平尾台で最もよく鍾乳石が発達する洞窟だ。天井から幕状鍾乳石
(幕石、カーテン)、床から石筍が成長している。現在は保護のために洞口が閉鎖されている。

27.平尾台、断ヘリ穴のヘリクタイト(福岡県)
 ヘリクタイトは曲り石とも呼ばれ、平尾台では珍しい鍾乳石。内部にある非常に
細い穴を通って石灰分を含んだ水が先端に染み出して成長する。

28.平尾台、断ヘリ穴のヘリクタイトつらら石(福岡県)
 普通のつらら石と違って先端が鋭くとがっていることが特徴。全体も少し曲っている。


29.石垣島、カラ・カルストの幕石(沖縄県)
 雨が多く、また旺盛な生物活動による土壌二酸化炭素生産量が大きい亜熱帯地域
では石灰岩の溶解と沈澱の両方が活発で、洞窟も鍾乳石もよく発達する。

30.石垣島、カラ・カルストの石筍(沖縄県)
 増水によって転倒した鍾乳石の上に、新たに直径数センチ、長さ2mほどの細い
石筍が形成されている。次の増水で消滅するかもしれない。

31.石垣島、カラ・カルストの樹根つらら石(沖縄県)
 洞窟の天井が地表に近い場所では天井から樹根が顔を出すことがあるが、写真では
つらら石の先端から樹根が垂れ下がっている。樹根と鍾乳石、どっちが先だろう。

32.阿哲台、ゴンボウゾネの穴の盾状鍾乳石(岡山県)
 盾状鍾乳石(シールド)は洞窟の壁の割れ目から染み出す地下水に含まれる
石灰分が沈澱して形成される。日本では岡山の洞窟に多い。写真は直径約1.5mの
日本最大級のもので、円板状の部分から下につらら石が成長している。

33.平尾台、洞窟真珠(福岡県)
 洞窟真珠は貝が作る真珠と同じように小石のまわりを石灰分が取り巻いてできた
丸い鍾乳石。これほど密集する場所は珍しい。

34.平尾台、青龍窟のムーンミルク(福岡県)
 固結していない粘土状の柔らかい鍾乳石をムーンミルクと呼ぶ。ヨーロッパ・アルプスの
高山や極地などの寒冷地に特有の珍しい鍾乳石とされていたが、近年温帯や熱帯地域
の洞窟でも発見されるようになってきた。平尾台でも写真のような小規模なものはいくつか
みつかっている。

35.平尾台、古鍾乳石(福岡県)
 不動洞の近くの岩壁で見られる鍾乳石。岩壁の崩壊で洞窟が地表に顔を出したもの。

石筍を流れ石が覆った断面がよくわかる。

36.渋谷暗渠(東京都)
 人工的な洞窟は疑似カルストと呼ばれる。東京・JR渋谷駅地下の渋谷暗渠を
日本テレビの番組取材で調査した。もともと地表を流れていた渋谷川に屋根を作った
ものなので、床のコンクリートのすきまから地下水が湧いてヨコエビが棲んでいた。

37.渋谷暗渠、コンクリート鍾乳石(東京都)
 暗渠の各所には天井のコンクリートから溶出した怪しい鍾乳石が発達していた。
増水のたびに侵食されるため、かなり成長が早いと思われる。ムーンミルクのような
柔らかい部分もあり、微生物が関与していることをうかがわせる。


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