カマネコ探検隊の夜明け後

                                            そしてアンドレ・ブルトンはニャアと鳴いた


  てなわけで第一回のお相手は”隊長”こと浦田です。ここで断っておきますが、”隊長”と
いうのは正式な役職名ではありません。役職名はChief Directorといい、隊長はその俗称です
ね。役割は総合監督、オピニオンリーダー、取材のインタビューに答えること、などと言われ
ていますが今ひとつわからないところがあるので他の隊員の役職を考えてみましょう。

   ヒタカ=Program Director 活動全般、特に企画のプログラムをたて、進行を指 揮する。
   キムラ=Managment Director つまり会計。なんと二重いや複式簿記をつけてい る。
   内 藤=渉外 Director 公民館、保険会社、新聞社(特に朝日)、他サ−クル (特に西
          洞潜)、などと連絡、交渉。
                                                                  (1986年3月当時)

  以上のように実務能力に秀でた各Directorがそろっており、考えるとどれも私にできそうも
ない仕事ばかりで、そうか隊長とは他の仕事ができないものがなるのか、ではこうしよう、隊
長とはカマネコの象徴であり、雑用係である。

  さて次にカマネコ探検隊の「カマネコ」の由来ですが、山猫、亀猫(?)、カマボコのミスス
ペル、おカマのネコなどの短絡的解釈、また芳ヶ谷コネクション発見直後に発表された「(カ)
勝手気(マ)ままに、(ネ)ねらったことを、(コ)こっそりやる」という内藤隊員の鋭く本質をつ
いた説をしりめに、宮澤賢治の短編「猫の事務所」に登場するかま猫に由来することが知られ
てきました(カマネコの報告書(T)は彼に捧げられている)。が、ではなぜカマネコなのか、に
ついてはいくつかの説があり、まだまだ真実は知られてないようです。この点については『カ
マネコ探検隊報告書(T)』の中の「カマネコの夜明け」と題されたヒタカの文の中に、ウラタ
と、「猫の事務所」の主人公、カマネコが「カワイソ−でものすごくイイ」と話した、とあり
ます。それでは次に「カワイソ−でものすごくイイカマネコ」がなぜ「探検隊」と結びついた
のでしょう。この解釈についてはいくつかの説があります。

  〔その1〕 RKB毎日放送、四家秀治アナウンサ−によって1984.7.14、RKBラジオ「サ
             タデーモーニングパトロール」の番組中に発表されたもので、「カワイソーで
             けなげな姿がいい。それでカマネコ探検隊とした。」という説。

  これは「カワイソー」よりも「けなげな姿」に共感したと考えられますが、もともと宮澤賢
治のテキストにはカマネコの「けなげな姿」はミジンもなく、また前述のように「カマネコの
夜明け」の中でも「けなげな姿」に触れる発言は見られません。

  〔その2〕 「すすで汚れていることでいじめられながらもけなげに生きる姿が、いつも泥
             で汚れているケイバーの姿ににている」つまり「カマネコ=ケイバー」とする
             説。1985.10.19、RKBテレビ「サタデー北九州」の中で隊長がインタビュー
             に答えたもので、”ススの汚れ”と”泥の汚れ”とのアナロジーは理解しやす
       ぐ、以来この説が一般に正調として流布しているようであります。

  この説は〔その1〕の「けなげな姿」説を発展させたものと考えられますが、「けなげさ」
を主張する限り〔その1〕と同様に根本的にテキストの誤った解釈に基づくものであります。
また「カマネコ=ケイバー」とするストレートさもカマネコ本来の思考パターンではなく、あ
とでこじつけたものと思われます。
  ではここで真実を追究するために「カマネコの夜明け」に戻ってみましょう。初めて「カマ
ネコと「探検隊」と結びついた夜、ヒタカとウラタはまず山岳クラブの名前から「カモシカ同
人」を登場させています。次に明らかに「カモシカ」からの連想として「カマネコ」が登場し
てきますが、ウラタ、ヒタカの猫好き、宮澤賢治好きを考えた場合それほど不思議なことでは
ありません。そしてそれに続く「カマネコ・ケイビング・クラブ」。これで決まったかに思わ
れました。しかし、ウラタはこれを否定し、ここに遂に「カマネコ探検隊」が出現しました。
この過程で注目したいのは、「カマネコ」+「探検隊」の前に否定されるものとして「カマネ
コ」+「ケイビングクラブ」が存在したいた点です。この「ケイビングクラブ」から「探検隊」
への変換の機構にこそ、「カマネコ探検隊」のナゾを解くカギが隠されているのではないでし
ょうか。両者を検討してみましょう。「カマネコ」+「ケイビングクラブ」の結びつきは、前
述の「カマネコ=ケイバー」説と同様に、「猫の事務所」を呼んでカマネコがススで汚れた猫
だと知る者(ここではウラタとヒタカ)にとっては、たやすくカマネコとケイバーを結びつけ
ることができるでしょう。「モグラケイビングクラブ」、「コウモリケイビングクラブ」のよ
うに動物の名をつけたケイビングクラブと同列に並ぶことも可能です。また、音的にはカマネ
コ・ケイビング・クラブとカ行の韻を踏んでいます。つまり「カマネコケイビングクラブ」は
意味的にも音的にも整合なのであります。それに比べて「カマネコ」+「探検隊」の結合には
意味的に音的にも関連性は存在しません。それどころか「カマネコ」と「探検隊」が「カマネ
コ探検隊」として結びつくことによって、互いのへだたりの大きさゆえに互いの意味を消滅さ
せる場を形成します。そこでは「カマネコ」も「探検隊」も本来の意味を失い、不安定な対立
の中で自ら新たな存在として主張しはじめるのです。この作用こそ、アンドレ・ブルトンが
〈シュルレアリズム宣言〉(1924)の中で主張した「純粋に心霊的な自動現象(オートマチスム)」
に他ならないのです。つまり、カマネコ探検隊はその誕生の瞬間からpsychic なポテンシャル
を持って生まれたのでした。(By 浦田健作 1986)

  ※ケイビング情報IN九州 No.11「カマネコ探検隊のページ第1回 浦田健作」より
    一部を除き転載(なおタイトルは転載にあたり新たにつけ、文章も一部改変した)

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